STスポット横浜が運営をする「福祉分野における芸術文化活動の基盤整備事業」の3つの現場を撮影させていただきました。リエゾン笠間は、私が行った3つの施設の中で、障害の程度は一番重く、利用者さんの中には意思疎通の難しい人たちも多くいらっしゃいました。進行性の病気を持つ人も多く、嚥下ができなくなり、もしくは嚥下をすると危険性があるので注入で食事を取られている方もいました。今回の芸術体験プログラムの内容がパン作り。自分で咀嚼して嚥下ができない人たちむ含めた参加者さんと、パンを作って食べる、食べられる人は食べる、というある意味では逆説的なプログラムです。なぜ食べられない人と?と思う人もいるかもしれませんが、実際に活動を見てみると、とても良い時間でした。利用者の皆さんは、アーティストのドゥイさんとパン屋さんの勝見さんのナビゲートにより、パンの原料である小麦、塩、砂糖を直接触り、触感や臭いをじっくりと感じていました。利用者さんの中には意思疎通が難しい方もいて、パンの原料に触れたことでどんな反応があったか、何を感じていたかは定かではありません。ただ彼らアーティストたちは、自分の感覚を開き、丁寧に働きかけようとしていました。
以下は、私が映像を始めた時期に知り合った大澤寅雄さんが書いてくれた文章です。
「そこで何かが共有されている瞬間は「尊いもの」としか言いようがない。最初の動画の最後の方で、ドゥイ(造形ユニット)の小野さんの発言。すごくいいことを言っている。
<本当なら聞くとかまではわからないと思うんです 本当にちょっと触れるとか 自分がちょっと開ける状態 もうちょっといつもより 自分が聞ける状態だったのかな 聞ける状態に自分が開いてた>
そうそう、その感覚。その瞬間は、劇場やホールや美術館の中で、初めて出会う表現に心を揺さぶられる瞬間と私にとってはまったく同じだし、それが誰にとって尊いのかというと、すべての人にとって尊いものだと私は確信している。すべての人が気づくわけではないかもしれないけれども」
この作品は自分の作歴の中でも重要な一本だと感じています。いつものようにただカメラの前に現前してたことを繋いだ素朴な映像です。構成的な作為は何もなく、この日の時間と人々のあり方を淡々と映像にまとめたものです。ぜひじっくりと見てもらいたいと思います。