BOOKBUSは本を届ける旅に出る

46 min / 2018

  • Producer : SATORU HARA
  • Director : KENTAROH UEDA
  • Cinematographer : KENTAROH UEDA
  • Editor : KENTAROH UEDA

長野県上田市を拠点に、インターネットを介した古本の買取・販売を行うバリューブックスが、ネットの世界を飛び出して、書店のない地域に本を届けるためにバスを走らせる。移動式本屋プロジェクト「BOOK BUS−ブックバス」。

2018年6月に敢行された東北ツアーに密着し、小さな書店「BOOK BUS」の目の前に広がった風景をつぶさに記録。旅の先々で出会う人々や関係者へのインタビューから溢れんばかりの本への想いを掬い取り、「BOOK BUS」プロジェクトを通して本が持つ可能性に迫るドキュメンタリー映像です。(公式リード文より)

移動式古本屋が東北地方を巡回するドキュメンタリー映像『BOOKBUSは本を届ける旅』です。

リンクで平川友紀さんの文章と袴田和彦の写真を見ることができます。ぜひ記事を見てから映像を見てください。ライターの平川さん、写真家の袴田さん、企画をしたバリューブックス原さんと私の4人のチームで東北を回っていたのですが、ライターさんと写真家と同行して映像を作るってのが、これがなかなか良い効果を完成映像にもたらしてくれたなと思っています。お互い助け合いながら(というか私がかなり助けられたのですが)、平川さんが話しかけて展開した会話を映像で撮ったり、袴田さんのアングルの切り方を拝借したり、機材の運搬を手伝ってもらったり。

https://greenz.jp/2018/10/16/bookbus_tohoku/

映像制作の裏話を少し。

バリューブックスの原さんからお仕事の依頼をいただいたんですが、原さんとは隠岐の島で開かれたフィルムコミッションの総会に潜り込んだ時に出会いました。

原さんは元々上田市のフィルムコミッションで働いていらして、コトプロダクション制作の劇映画『エキストランド』の照明技師をやった時に色々お世話になりました。なので今回は二度目の「上田案件」なので、上田が苗字の人間として嬉しい限りでした。

で、原さんからブックバスと東方ツアーの概要を聞いて、これの映像を作りたいと言われたのですが、私は普段「企業PRビデオ」の案件に関わることが少なくなく、そういうビデオって3分くらいのものを作ることが多いんですね。なので、そういうものかなと思って「こういう感じで撮って行けば3分くらいのものが作れますね〜」と提案めいたことを言ったんですが、原さんが少し黙った後、「PV的なものも欲しいんだけど、10分15分あっていいのでドキュメントが作れたらと思う」とおっしゃりました。私は心の中でガッツポーズをしました。提案をしていながらも、PR映像のようなものを作ることにはあまり乗り気ではなく、本当はそういうPRという意図ありきの映像ではなく、強いて言えば映画に近いもの…..いや映画的ですらないのかもしれない。ただ起きている状況を素朴に捉えた純粋映像のようなものを作りたい気持ちがありました。

近年は撮影機材の急激な進化と低価格化で、誰でもとは言いませんが、かなり簡単に、TVCMのようなハイバジェット広告でなくても。「綺麗でカッコいい」映像が作れるようになりました。そうすると当然、世の中に似たような映像が溢れてきます。テンポの良い音楽に高画質で綺麗な映像を短く連ねた映像は口当たりがよくて、スマフォでザッピングしてSNSなどで出てきた時にそれなりの映像として受容されます。実際、私も生業としてはそういう映像制作に関わることの方が多いのです。

もちろん量産化と類似化が起こる中で、何か違うものを見つけて差別化した映像を作るのが映像制作者の使命でもありますが、私自身としては映画をバックグラウンドに持つものとして、1〜3分の短い映像の中でどうこうするよりも、内容あるものを、長い尺で見せたいと常々思っておりました。

近頃はもう3分以内の短い映像を作るのがどんどん苦手になっております。場の空気感や人間味、映像を見ることで立ち上がる感覚のためにはどうしても長さが必要だなと考えています。私のできること、映像のできることを考えると、「短く、スタイリッシュに、テンポ良く」というマスに向けた体裁を整えるよりも、特定の誰かに向けた手紙のような映像を作ることがより本質的であると感じています。

さて、撮影を始めていくと、どうにも愛おしい瞬間がたくさんあり、その瞬間を包摂した映像にしようとすると、最初に言っていた尺よりも遥かに長い46分の映像になってしまいました。

本の力なのでしょうか。本があることで人が集まり、個々人の本について関わりや生活が微かに顔を覗かせる状況に、私は出会うことができました。本の力なのでしょうか。いや、それだけではなく、BOOKBUSを運営するスタッフの人柄と情熱がそういう尊い瞬間をカメラに見せてくれたのだと感じています。BOOKBUSの来訪を新聞で知り、BOOKBUSの来訪を楽しみに待っていた子どもたち、本を寄贈してくださった方や予期せぬ成り行きからBOOKBUSを迎え入れていくれた図書館の司書の方、農作業の途中にたまたま立ち寄っておしゃべりを共にしてくれた方、様々な人々が登場します。人間と本がともに暮らしてきたことを感じさせる映像になっていればと思います。(上田謙太郎)